凡人日記

よろしゅう。

近未来バイト

とにかくお金がほしい月末。

1日にカレーを5000杯よそったニコニコ超会議

来久々にイベントスタッフのバイトを入れた。

『イチ推しトーク!』という男性Vtuberファンが

集まる握手会みたいな形式のイベントの運営。

要するにオタク女子をひたすら誘導する任務。

サブカルは好きでもVtuberというコンテンツには

まっったく疎いもんで、2分間パネルに向かって

話すだけで5000円という驚異の価格設定にはビッ

クリしちゃった。最初はね。

これまでお客さんを誘導する経験など当然無かっ

たので、鮮明に記憶に残ってるカリブの海賊の演

技派キャストさんをモデルに頑張ってみる。

事前にお客さんに説明をするのだけれど、その時

点で相当緊張してるのか目が虚ろな女性や肩で息

してるような女性がいて、思わず大丈夫ですかと

声をかけたくなる。

でも面白いのが、証明写真機みたいな個室ブース

に入り、"推し"と面会できた途端にみんな揃いも

揃ってスイッチが入り、ものすごい迫力で画面の

先にいる"推し"とトークを繰り広げるのだ。

ついさっきまで全く掴めなかった女性が全身全霊

で自分のすべてをパネルにぶつけている。

それにみんなすごいおしゃれだ。

"推し"カラーの髪色なりネイルなりしてきたり、

めちゃくちゃいい香りの香水をつけてきたり、

画面越しの"推し"に対しての熱量はジャニや坂道

のアイドルオタクに全く劣らない。

むしろ相手が同じ空間にいない分自由なので、

それ以上の熱量を感じてしまうほどに。

最初は異次元空間に困惑していたんだけど、

なんだか素敵だなぁと思えてくる。

年齢層もかなり幅広い。中学生〜大人まで。

小柄で可愛らしいショートカットの女の子は、

晴れて就職先が決まったことを青森からわざわざ

報告しにきたらしい。

若めの衣装で年齢が見えないお姉さんはボク以上

におっちょこちょいで、ヘッドホンをつけている

ことを忘れて帰ろうとしたのでコードが絡まって

しまい、それを解こうと何度も回転することで

むしろ逆効果を生み、ミイラのようにぐるぐる巻

きになっていた。

助けてあげたところ、

『あらやだタイプ!萌え!』

って褒めてくれた。

素直に嬉しいけど今は任務を全うしなくては。

そのあとに『特に髪型がね!』

そう言って去っていった。

髪型か...と変に脱力してしまった。

そんな中、とある薄めのメイクの女性が、ボクの

担当の"天馬くん"を前にかなり緊張した様子。

丁寧に挨拶をしてくれて、ブース外観の写真を撮

るのに一声かけて下さるようなよくできたお方。

2分間のタイマーをスタートすると、

女性はいきなり声を震わせていた。

ジャニーズの美貌を生で拝めた感動で泣くような

人は知ってる。

だけど相手はあくまでVtuberだぞ!?

どこに泣き要素が詰まってるの!?

なんて思ったのはよくなかったかもしれない。

『介護の仕事をしていて、それが結構辛くて、

それでも天馬くんが支えになってるの。』

"結構辛くて"がどれほどのものかは当たり前だけ

ど本人にしか分からない。

けどこんなに周りの見えた人も壁にぶつかってし

まうのが今の世の中だ。

人に元気と笑いを与えるようなヒーローでも命を

絶つような現代社会は、ボクが思ってる以上に窮

屈なのかもしれないな。

この女性のように"推しに貢ぐ"ことで嫌なことか

ら解放される人だっている。

それがどんなものであれ、人のオタクを応援して

あげられる人間になりたいなって思えた。

誰にだって嫌なことはある。それと同時に、

誰にだって嫌なことから解放される瞬間がある。

その1つとして"Vtuber"はアイドルよりも身近に

寄り添ってくれて、共通の話題などで同じ目線に

立ってくれる素敵なコンテンツだったのか。

いつか、もっと発展して、"実体がそこにある"

みたいなことになったりするのかな。

そしたら一層Vtuberへの依存は激しくなるはず。

そんな近未来も感じられる面白いバイトだった。

世のいろんな女性を虜にできるVtuber

ちょっと憧れる。

話芸もない、イケボでもない。

髪型だけが萌え要素のボクにも出来るだろうか。

そもそも髪型も関係なかったみたい。